ULOG秋祭り
兎目覚める夜 小説 #ULOG秋祭り最高ランク : 1 , 更新: 2023/11/26 17:42:11
__風は翠に希望の一筆__
どうも、皆さんこんばんは。
翠風深兎です。
今日は待ちに待ったULOG秋祭り!
……と言う予定だったのですが、小説がギリギリ間に合いませんでした()
俺はいつも通り小説部門での参加です。
題名は「君と作る景色」。
それでは、どうぞ!
「君と作る景色」
俺は、秋が嫌いだ。
「秋は涼しくて気持ちがいい」とよく言われるが、俺にとっては全然そんなことない。
俺は、生まれた頃から体が弱かった。
少しのきっかけで高熱を出し、走ろうものならまともに息ができなくなる。
学校に行ったことはおろか、病院から出たことすらほとんどない。
そんな俺の体は、寒暖差の激しい秋に何事もなく耐えることなどとてもできなかった。
10月。
案の定体調の芳しくない俺に、小さい頃からよく知っている看護師の咲耶(さや)さんがにこやかに話しかけてきた。
「楓舞(ふうま)くん、聞いて!」
「何?」
「今日からこの部屋に新しいお友達がやってくるの! 楓舞くんと同じ14歳だよ。仲良くしてあげてね」
「あっそ」
別に興味なかった。
今までだって何度か誰かがこの部屋に入ったことはあった。
でも、みんなどうせすぐに退院してしまう。
そうしたらもう二度と会うことなどないだろう。
だから、誰が来ても正直どうでもよかった。
「全然興味ないって顔してるね……まあいいや。とりあえず紹介するね」
咲耶さんが一旦病室の外に出る。
再び入ってきた咲耶さんの後ろには、右脚にギプスを嵌めた活発そうな女子がいた。
「まず、楓舞くん。この子は一之瀬紅音(あかね)ちゃん。そして紅音ちゃん。この子は秋風楓舞くん。二人とも同い年なんだし、仲良くね」
「よろしく、秋風くん!」
活発そうな女子――一之瀬さんが俺に手を差し出す。
俺はとりあえず握手をすると、一之瀬さんは俺の軟弱な腕をぶんぶん振ってきた。
俺とは違って健康的に日焼けした腕。
こうやって握手してみると、その色の差がはっきり分かる。
「うんうん、仲良くなれそうで何より。それじゃあ、私はそろそろ行くね」
咲耶さんが病室を出ていく。
部屋には俺と一ノ瀬さんの二人っきりになった。
一ノ瀬さんは彼女のベッドに入ることなく、慣れない松葉杖を動かして俺の周りをうろついている。
一ノ瀬さんは俺のベッドの脇にある本の山を見つけると、すっとんきょうな声をあげた。
「え、これ全部秋風くんの本? すごい! こんなに読んだんだ!」
「暇だからな」
俺は適当に返事をする。
「すごいな~。あたし、活字苦手でさ。本なんて全然読めないよ」
だろうな、と思った。
どうせこいつは俺と違い、健康なスポーツマンだ。
きっと部活中にでも怪我したんだろう。
運動なんかしたら体がもたない俺からすれば羨ましい話だ。
「あ、そうだ。せっかく同室になるんだし、楓舞くんって呼んでいい?」
「好きにしろ」
呼び方とか、正直どうでもよかった。
せいぜい数ヶ月の付き合いだ。
仲良くなる必要などない。
「あ、じゃあ好きにするね! 楓舞くんもあたしのこと紅音って呼んで!」
「はいはい」
適当に返事しているが、こいつ、かなり距離が近いな……。
少し苦手なタイプかもしれない。
「そういえば思ったんだけどさ、楓舞くんってめっちゃイケメンじゃない?」
「……は?」
俺が、イケメン?
唐突な褒め言葉に困惑してしまう。
「なんかさ、薄幸の美少年って感じ? 学校にはいないタイプ」
「そりゃあいないだろうな。俺みたいなのは学校なんて行けない」
「そういうことじゃない」
紅音が苦笑いする。
「っていうか、楓舞くんってどこが悪いの? ずっと入院してるって聞いたけど」
「……それ、普通聞くか?」
デリカシーなさすぎだろ……。
しかし悪気はないらしく、紅音はニコニコしている。
「だって、楓舞くんのこと色々知りたいじゃん」
「そういうものなのか……?」
「うん」
……仕方ない。
別に言いたくないわけでもないし、むしろ言っておけば急な発作にも対応してもらえるかもしれない。
俺は淡々と話した。
「主に肺が悪い。それと心臓とか免疫系もちょっと悪いかな」
「へえ……大変なんだね」
「まあ、生まれつきだから慣れてるけどな。紅音は右脚の骨折だな? 運動でもしてたのか?」
俺もせっかくなので紅音のことも聞いてみることにした。
「うん。あたし、バスケ部に入ってるんだよね。練習のときに思いっきり転んじゃって。はは、もうすぐ大会なのにさ。情けないよね」
……あまり聞かない方がよかったかもしれない。
「大会はもうないのか?」
「うーん、あるっちゃあるけどさ。一回怪我しちゃうと、また元通りに動くのってめっちゃ難しいらしいんだよね」
紅音が力無く笑う。
声色こそ明るいが、瞳の色は暗かった。
でも、俺は思う。
「……でも、元通りではなくても動けるようになるんだろ?」
「え? うん、そうだと思うけど……」
「ならいいじゃん。俺なんてこの体が果たしてよくなるのか、そもそも近い未来にちゃんと生きてるのかすら分からないんだぞ」
俺が言うと、紅音は一瞬目を丸くした。
「……そっか」
頷く彼女の瞳は、いくらか明るくなった気がした。
紅音がこの病室に来てしばらくしたある日、窓の外を眺めていた彼女が唐突に問いかけてきた。
「楓舞くんってさ、秋、好き?」
紅音の視線の先では、紅葉の葉が病院の中庭を舞っていた。
「嫌い」
「え、なんで?」
紅音が勢いよく振り向いて俺を見る。
「まず、寒暖差が激しい。残暑かと思えば急に寒くなるし、冬になってきたかと思えばまた暑くなる。こんなの、俺の体がもたない」
「……」
「それに、なんか惨めな気分になる」
「なんで?」
「落ち葉だよ。せっかく頑張って光合成してたのに、秋になると冬を乗りきるためにあっさり淘汰される。そして、子供の遊び道具になったりたくさんの人に踏みにじられたり。惨めだと思わないか?」
「うーん……あたしはそうは思わないけどな」
「え?」
俺はびっくりして紅音の顔を見る。
「あたしは、秋って一番綺麗で暖かい時期だと思うんだよね。葉っぱが綺麗な色に色付いて、落ちる。そして、人がその上を歩いたり、それで遊んだりする。景色を眺めて喜ぶ人もいる。それってさ、すごく暖かい景色だと思わない?」
「……そう、なのか」
「あと、葉っぱの色もいいよね。だいたい赤とか黄色とか、暖色じゃん? だから余計に暖かく見えるのかも」
俺は窓の外の楓を見る。
真っ赤な手みたいな葉が舞う。
地面を少しずつ彩る。
楽しげに笑う入院患者たち。
……なるほど、確かに暖かいと言えば暖かいのかもしれない。
「だからあたし、楓舞くんの名前聞いたとき、すごくいいなって思ったんだよね」
「え? なんで?」
俺の、名前?
どうしてこの流れで俺の名前が出てくる?
「秋風楓舞くん。秋の風に楓が舞うって書くでしょ? まさにあたしの大好きな景色を体現したような名前だよ」
「……」
嬉しかった。
実は俺自身、この名前が嫌いだったのだ。
大嫌いな秋。
惨めな落ち葉。
そんなものを表す名前なんて縁起でもない。
ずっと、そう思っていた。
だけど……紅音のおかげで、初めてこの名前の価値を見出だせた気がする。
俺はもう一度窓の外を見た。
暖かい風景。
鮮やかな色彩。
――悪くないじゃん。
秋って、意外といいものなんだな。
生まれて初めて、そう実感した。
それから俺たちは頻繁に話すようになり、それと共に新しい価値観を知ることにもなった。
どこにも行けない俺と、活発な紅音。
全然違う俺たちだからこそ、そういった深い会話が出来るのかもしれない。
やがて紅音がリハビリをするようになり同じ病室にいられる時間が減っても、決して疎遠になることはなかった。
そうしているうちに秋が去り冬がやってくると、紅音のリハビリもどんどん順調になってきたらしい。
そしてクリスマスが近づいたある日、紅音が嬉しそうに目を輝かせて言った。
「あたし、クリスマスイブに退院できることになったんだ」
「……おう、おめでとう」
俺は口先ではそう言ったが、内心では、少し寂しかった。
この病室には紅音がいる。
それがもう、俺の当たり前になってしまったのだ。
紅音は満面の笑みで話している。
――駄目だ。
せっかくの退院を喜べないなんて。
心から祝福できないなんて、俺はどれほど最低なんだ――!
冷静になれ。
2ヶ月ほど前までは紅音がいないのが当たり前だった。
前の状態に戻るだけだ。
何も寂しいことはない。
そう自分に言い聞かせているうちに、紅音は喜色満面で退院して行った。
俺は笑顔で送り出したつもりだったが、上手く笑えていたか分からない。
――2ヶ月前と同じ、俺しかいない部屋。
それが今、やけに広く感じる。
ああ……もう一度紅音に会いたい。
秋の、俺の名前の暖かさを教えてくれた紅音に。
そして、俺は初めてある想いを抱いた。
――退院したい、と。
今までは、退院なんて夢みたいな話だと諦めていた。
もちろん調子がよければ一時退院できたのだが、それもこの14年の人生で数えるほどしかなかった。
だから、俺がこんなに前向きに退院を望んだのは初めてだった。
目標は次の秋だ。
紅音が教えてくれた秋の暖かい景色を、来年も紅音と見たい。
だからそれまでに体調を整えよう。
急に前向きになった俺に咲耶さんがびっくりしていたが、俺はそんなことはどうでもよかった。
また紅音と秋を過ごしたい。
ただその一心だった。
そうして季節が過ぎ、俺の体調も好調に向かった。
そしてついに、再び10月が巡ってきたとき。
「おめでとう、楓舞くん! 最近調子いいから一時退院できるって!」
「え……」
俺は言葉を失った。
やっとだ。
やっと、念願の退院――!
それからは速かった。
ウキウキで退院の準備をして、気がつけば病院を後にしている。
帰ってくるのも幾度めかの家に帰ると、慣れない心地よさに涙が出そうだった。
ふと窓の外を見ると、暖色の葉がひらりひらりと舞っている。
――紅音に、会いたいな。
会えるかは分からないが、紅音と共に紅葉を見たくて仕方がない。
「……母さん」
「ん、どうしたの?」
「ちょっと、外歩いてみたい」
紅音と会える確率は低いが、わずかな可能性に賭けてみることにした。
「いいけど、無理はしないようにね。お母さんも一緒に行くから、駄目だと思ったらすぐに言うこと。約束できる?」
「ああ」
「じゃあ、いいよ。行こう」
そして、俺たちは外に出た。
肌寒い空気の中、葉が一枚、また一枚と舞う。
俺の足元では歩く度に心地良い音が鳴っていた。
俺の気分は高揚するが、しかし、体の限界はあっという間に訪れる。
少し歩いただけでかなり息が上がってしまった。
するとちょうどいいことに、近くに大きな公園が見えた。
あそこにはベンチがあるだろうか。
俺は母さんと一緒に公園に入り、ベンチに座る。
落ち葉の中で遊ぶ子供たちの風景に、少し心が暖かくなった。
どれくらいそうしていただろうか。
ふいに、俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「――楓舞くん?」
俺はびっくりして周りを見渡す。
「あ、やっぱり楓舞くんだ、久しぶりー!」
懐かしい声と共に俺の視界に飛び込んでくる姿。
俺は感極まって叫んだ。
「紅音!」
去年より少し背が伸びた紅音が俺のところへ走ってくる。
「すごい、楓舞くんも退院できたんだ!」
「一時退院だけどな。頑張ったんだぞ?」
「ああ、また会えるなんて信じられない!」
紅音が俺の隣に座る。
「ねえ、質問していい?」
「ん?」
「秋、好き?」
いつかと同じ問い。
でもその答えはもう違う。
「好きだよ」
暖かい景色。
俺の名前。
そして、この美しさに気づかせてくれた君。
あの日病室の窓から眺めていた景色を、今度は君とここで作りたい。
「紅音」
「何?」
……なんて、まだ言えないな。
「やっぱりなんでもない」
君と作る景色が一番暖かい、なんてね。
どうですか?
長くなってしまいました。
飽きずに読めたら褒めます((
それでは!
__未来図に今日の色を重ねて__
凄…!??!
私も小説書けたらなぁ…((
反応集しか書けない☆((((タメ口失礼or いいねわけしたよ〜
infomisakiaoi
2023/11/27 6:16:42 違反報告 リンク
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