百鬼夜行 はじまり

百鬼夜行
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最高ランク : 3 , 更新: 2019/04/03 21:28:01

「……どうしたんだ」
声が降ってきたのは、朱の色をした鳥居の上の方からであった。低いが、しかしはっきりとしていてよく耳に馴染むその声に、綺麗に着飾られ、一人涙を溢していていた童女はびくりと身体を震わせる。刹那、とんと音がした。落ちてきた一人の男。上手く着地し、細い吐息をひとつ。驚くわたしをそのままに、男はゆら、と立ち上がった。
紺の着物に身を包み、青年のような風貌をした黒髪の男。彼はわたしを見るなり眉間に皺を寄せ、それから深くため息を吐く。
「……幼子がここに何用だ」
先程の声とよく似た声。わたしは、着物の裾で涙の粒をぐいと拭き取ると、「……供物」と答えた。
「村の豊作を祈るための巫女様になるために、神様の捧げ物になりに来たんです。だからこうして着飾って、……ほら」
わたしの村では豊作を祈るため、毎年20に満たない女子(おんなご)が神様への供物として捧げられる。彼女らはわたしのように綺麗な着物を着せられ、神の住むという神社へと送り出されるのである。送り出された女子がそれから村に帰ってきたことはないため、彼女らを巫女と呼び、その犠牲を忍ぶのである。
「あぁ、……もうそんな時期か」
わたしが着物を見せると、村の制度を知ってか知らずか、興味なさげに男は腕を組む。すい、と鳥居に視線をやったかと思うと、またこちらへ向き直る。
「今年はお前が贄か」
「に、贄だなんて、……わたしは村のために」
「ほう?」
男は、厭らしく目を細める。
「自分等の利益のために、贄としてお前を神に差し出した者共だぞ?怒りや憎しみはないのか?巫女になるため、神の捧げ物なんてのは綺麗な言葉に聞こえるかもしれないが、所詮はお前に重荷を背負わせただけに過ぎない。自分が身代わりになるのは怖いからな。全部、お前に投げたのさ。……そんな者共だと聞いても、まだ村のためと?」
ぐ、とわたしは唇を噛み締めた。男の言うことにも一理ある。彼が言うのと同じことを思ったこともある。何故わたしが、と耳を疑ったことも、昨日のことのように覚えているくらいには。
ふつ、と沸き上がる激情。黒い渦のようなものが身体を支配していくような。どくん、と心臓が大きく脈を打ち始め、その黒いものに飲まれてしまいそうになる。しかしわたしは、それをやっとの思いで押し殺した。
「……そ、それでも」
「ん」
「それでも、……わたしの生まれた地ですから」
「……ふぅん。お前、結構な馬鹿だな」
「馬鹿って」、そう言い掛けてその言葉を飲み込んだ。ふ、と男の口角が緩やかに持ち上がる。
「だが、そういう馬鹿は嫌いじゃあない」
ぶわり、黒いものが彼を包む。それの欠片ははらはらと地面へ落ちていく。なんだ、と目を凝らせば、真っ黒な羽。
「黒いものに取り付かれたら、喰ってやろうと思っていた。今までのように」
黒い羽から彼が姿を現したとき、その背には真っ黒で艶やかな羽が生えていた。装束も先程とはうって代わり、紺の袴を着ている。このようなことは人技で出来るものではない。よって、この者はこの地の神であると。わたしがあんぐり口を開けるのを、烏天狗は面白いものを見るようにして眺めながら。
「今までの女子は俺の言葉に飲まれ、化物と化した。化物を放っておくわけにもいかないし、人間の邪気の塊というものは厄介だったからな。喰らうしかなかった」
今までの巫女たちは、この神に喰われたのか。怯えた目をすると、ふいにこちらに手が伸ばされる。その手はわたしの頬に触れ、ゆっくりと撫でる。
「安心しろ、お前は喰わない」
ほんのりと温い、手の感覚。
「そもそも、俺も人間やら憎悪やらを喰いモノにしているわけじゃないからな。試したんだ」
「試した?」
「疚しい心を持つものをこの先へ行かせないために」
「お前は違ったから」と、天狗は微笑を漏らした。先程までの冷たい雰囲気は消え、情を含んだ物言いをする。
「なぁ、巫女の子」
男は愛おしそうに指の腹で頬をなぞり。
「俺と一緒に来てはくれないか?」
わたしは認められたのか、この神に。ならば、もうわたしの考えは決まっている。
「……付いて、いきます」
「分かった」
ふわ、と身体が浮く。気が付けば、男がわたしを抱き上げていた。
「しっかり掴まってろよ」
男の着物の裾をぎゅ、と掴むと、くす、と笑うような音がした。
とん、と男が跳躍する。羽を広げ、空へと飛び立つ。その背は段々と奥に佇む社の方へと消えていった。
以来、この村で神に巫女を送ることはなくなったという。




ーー
昨日の夜中から書き始めて三時間くらいで書いたプロットです

やっぱり小説はPCで書かないと効率悪い……

うちのユキくんの先祖様の話です(ユキくんはこの話知らないでしょうが)

設定がとにかく凝るの楽しかった、烏天狗って夢が広がりますね好き

ロッタの方もちまちま書いてるので、できたら上げていきますね

おむらいす星人(空弥)


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(((^q^)=(^p^)))
(語彙力の喪失)


nora8to
2019/04/03 17:16:47 違反報告 リンク


わーい、野良神ちゃんお久だ~✨
帰ってきて語彙力www


おむらいす星人(空弥)
2019/04/03 17:22:25 違反報告 リンク


近いうちにホラーもあげてくね……
電車のなかで書くから遅くなるかもだけど……


おむらいす星人(空弥)
2019/04/03 17:49:15 違反報告 リンク


神じゃん

愛之助
2019/04/03 19:00:25 違反報告 リンク


やっべえ……さすが師匠です、、✨
もう最後まで見入ってしまった。
これ、うろぐでの一番の癒しと趣味!!((
いやでもほんと神すき()


Ratte*らて
2019/04/03 20:49:06 違反報告 リンク


好きです(告白)

てぃな@えんでぃんぐ
2019/04/03 21:26:32 違反報告 リンク


ひゃあああ!
待ってました!百鬼夜行!!!!
私もそろそろイベントやっていかなくては…!


空色
2019/04/04 3:34:58 違反報告 リンク


大手裏剣ピーヤ
紙の間違いだろう?

らてちゃ
ひゃあ……見入って……!
嬉しい……
らてちゃの子も、今のストック分の終わり次第書くな……

やみちゃ
うふふ、告白嬉しいw

空色ちゃん
そろそろやらなきゃと思ったからね……!
お、おお!!待ってるよー!!


おむらいす星人(空弥)
2019/04/05 15:37:50 違反報告 リンク


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