両片思い【企画参加?】

一行小説
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最高ランク : 9 , 更新: 2017/12/26 9:17:23

昨日、一つの人形が人間になった。その人形の名を、ヘンリーと云う。

人形は、前々から人間になりたいと、毎日のように神に祈っていた。身体こそ動かせないものの、もし人間だったら跪いて両手を胸の前で組むように、真剣に祈っていた。それは神ーー基督ーーを信仰する基督教徒のようだった。

まず、現実的に考えて。人形が人間になるということはあり得ないように思える。しかし、基督が生き返ったように、モーセが海を割って道を通ったように、人間がこの世に産まれてくることのように、奇蹟は起こるものなのである。そもそも、人形が人間のように、考え、思考し、望みを持つこと自体が奇蹟なのであった。

人間になりたかった人形は、人間に姿が変わっていくのを知ったとき、どう思ったのだろうか。喜びか、感動か、はたまた、興奮か。どちらにせよ、人形にはプラスの感情が湧いたと、読者諸君は想像しただろう。

かくして、人形は人間になった。碧い瞳と片眼鏡はそのままに。白い兎の人形だった彼は透き通るような白い髪を手に入れた。まるでどこかの怪盗紳士のような黒いマントが、その白髪と妙に対になっているように見える。二十歳ほどの青年になった人形は、一見普通の人間と変わらぬように見えた。が、体のあちらこちらに人形の名残だろうか、縫い目が残っているのと、おまけのように白い兎の長い耳が頭についているのだけが間抜けのようだった。

やがて人間として目が覚めた彼は静かに涙を流した。

「今更……人間に成っても意味がナイではありませんか。アナタがいないのならワタクシの生きる意味はないも同然だ」



昨日、一人の老婆が亡くなった。その老婆の名を、アリス=リデルと云う。

老婆には、夫も子供も、もちろん孫もいなかった。もともと体の弱かった彼女は、幼い頃から外に出ることを許されなかった。だからか、彼女は昔から友達が少なかった。孤独を好む女性なのである。

しかし、その分両親からの愛情は、人一倍貰っていた。彼女がケーキが食べたいと云えばすぐに用意し、ピアノをやりたいと云えばすぐにピアノを習わせ、人形が欲しいと云えばすぐに買って与えた。過保護。そんな親であることを、彼女自身も知っていたのか、歳をとるにつれて彼女も我が儘は云わなくなっていく。

そんな老婆が、一番大切にしていた物。それは、彼女が三歳のときに親に貰った白い兎の人形である。片眼鏡を着けているという以外特別、目立つところはない、ただの碧い瞳の白い兎だった。しかし、それは彼女が親に最初にした我が儘であった。

話す相手が欲しいの、と云う彼女に、親は人形を与えた。喋るのが好きな彼女は、その人形を一目で気に入り、毎晩話しかけることをやめない。死ぬ間際まで、彼女はベッドの近くにその人形を置いていた。

やがて死の近付くのが分かった彼女は、静かに微笑んだ。

「ありがと、ヘンリー。だいすき」

♤♡♧♢
今回のは小説じゃなく、追加設定みたいな感じで読んでくれると嬉しいです( ˘ω˘ )
一応企画には参加したつもり。

いつもは恋愛ものとか書かないので挑戦してみたけど無理でした( 'ω' )
悲恋ものとかホント無理( 'ω' )

妃有栖


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わかるうう!人形ってすばらし……
球体関節めっちゃすき……あ、無表情良い……!あの顔でどんな気持ちしてるんだろ…みたいなの想像するのがすき(

あ、ケンカップル良いw
カップルなのに遠慮してモジモジとか、もどかしいタイプだから分かりみが深い〜!


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2017/12/27 10:37:42 違反報告 リンク