【小説】続・クロロホルム

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最高ランク : 12 , 更新: 2017/11/23 8:55:30


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「ところで」

遠くで鳴る雨音をかき消すかのように、栄助は凛とした声で凍てついた空気を貫いた。バラバラと透明なガラス片となって、栄助の眼前に舞う。ガラス片を通して見る徳田の輪郭は歪んで見え、その表情まで読み取れない。

「私を何故御茶会に招待したんですか? 貴方に気に入られているのは承知ですが、それだけで貴方という人間が自分専用の茶室に、他人を招くとは思えません」

「あれ、ケーキはもう食べ終わったの? 新しいのを用意させようか」

少しの間の後、栄助は小さく返事をした。
丸い目を縁取っている長い睫が重なるのを確認し、徳田は左手にある電話を取ってメイドに繋げた。陽気な調子でアップルパイとティラミスを用意するよう言い渡す彼は、先程の空気などまるでなかったかのように振る舞い、流し目で栄助を見る。その瞬間、蛇に睨まれたように背を正す彼を見届け、徳田は至極満足そうに微笑んだ。

大きく開けた窓には、外の刺すような冷たい空気と中の暖炉で丁寧に温められた空気によって出来た水滴が雨粒のように張り付いており、湿った空気が二人を包み込んだ。お互い何も話さず、己の手中に収まっているカップの中を覗き込んでは、一方は微笑み、一方は更に皺を寄せた。と丁度そこに先程頼んだパイとティラミスが顔見知りのメイドによって運ばれ、栄助は何も言わず、徳田に差し出されたティラミスを頬張った。

「やっぱりお前は、まだ子供だね」

「ええ、子供です」

「あれ? さっきの子供扱いするな発言は、どこに行ったの?」

「さあ」

徳田の悪戯な気紛れに、栄助は尚も変わらず返答をする。徳田は全身を震わせ、にんまりと笑った。そして勢い良く立ち上がり、チェスターフィールドから離れたと思えば、そこら中を忙しなく歩き回ってまた着席する。

あれから珈琲には一口だって口をつけてはいない。

「本当、お前はお前だね」

「嬉しそうで何よりです」

口の端にマスカルポーネクリームを付けてつっけんどんと返す栄助に、徳田は機関銃のように言葉を浴びせた。その様子はまさに、銭ごまが裸足で逃げる。

にこにこと話す徳田と鉄の仮面でも着けているのではないかと疑ってしまうほど無表情な栄助の茶会は、滞りなく穏和に深まっていった。すると栄助がまた、徳田にあの質問をした。

「何故、私を態々此処に?」

ケーキを食べ終わり、徳田は砂糖まみれになって飲めなくなった珈琲と引き換えに、新しく挽いた珈琲を、栄助は二杯目のジュースに口をつけたところだった。
栄助は今度こそ逃がすものかと言いたげな形相で、徳田を睨み付ける。徳田も先程までの明るい表情とは一転、口を一文字に結び、眉も目も真っ直ぐな平行線に下げる。

訊いてはいけないことだと、八つの栄助でも分かった。分かっていた。が、矢張り気になるものは気になるのだ。

「時に栄助君。お前は、僕が神様だと言ったら驚く?」

突然の、何の関連性も見当たらぬ質問に首を傾げたものの、栄助はきっぱりと言い放った。それは彼がまだ当主と言っても八つの幼子だからか、それとも徳田とは長い付き合いである彼だからの答えなのか。

「いいえ」

「そう。それならいいんだ。長生きしてね」

栄助と談笑していた時とは打って変わった表情や声に一切驚かず、眉一つ動かさずに栄助は続ける。その少年特有の高い声と透き通るような発声で、徳田の鼓膜を小刻みに揺らした。

「もし貴方が神様だと言うのであれば、私は信仰を止めます。今までしてきた祈りや宣誓も全て水に流し、神など元からなかったように振る舞ってご覧にいれましょう。聖書を破り棄て、十字架を燃やし、神の存在などなかったかのようにして見せましょう。徳田さん。貴方は本当に__」

「五月蝿い」

その一言で、栄助の頬にヒビが入る。触れば言葉に現せぬほどの快感をもたらしてくれそうだったあの頬も、唇も、乾いた泥人形のように固くなり、一センチにも満ちなかった亀裂が、音をたてて栄助の体全体に走り渡った。褐色の良かった肌も土色へと変化し、豪勢な椅子の上へとその身体を落とした。

徳田は一部始終を見届けた後、栄助だった砂の山に近づきそのまま何もせず見下ろした。

空虚な部屋に軽快なノック音が響き渡る。重圧な扉の向こう側から聞こえる声は少年特有の高い、そして凛と張った頼もしい声だった。

「お招き有り難う御座います。四ツ橋栄助です」

「待ちわびてたよ。さ、入って、栄助君」

「失礼します」

二代目北斎


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連投ごめんなさい。
一発書きだったからかなり目の当てられないものとなっております。恥ずかしい(/-\*)


二代目北斎
2017/11/23 8:56:30 違反報告 リンク


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